依願退職とは何か?退職金やクビとの違いを人事が解説

query_builder 2025/04/17
コラム
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「依願退職って、自分から申し出た退職だから問題ないと思っていませんか?」

 

実はその選択、知らないと損する可能性があります。企業からの退職勧奨や不祥事への対応として、建前上「依願退職」と処理されるケースが少なくないのが現実です。退職金の支給額が減ったり、失業保険の給付が遅れたりするリスクも含まれているのです。

 

たとえば、自己都合退職として扱われた場合、失業保険の支給までにおよそ3か月の給付制限が発生します。しかし、条件を満たせば「会社都合退職」として認定され、早期に給付を受けられる可能性もあります。厚生労働省の指針でも、パワハラや長時間労働などが原因での依願退職は、会社都合として見なされる可能性があると明記されています。

 

「依願退職にしたはずなのに、こんなに不利だったなんて…」という後悔を防ぐために、正しい情報を知っておくことが大切です。

 

この記事では、依願退職の意味や会社都合との違い、退職金・失業保険の支給条件、そして制度上のメリット・デメリットまで、徹底的に解説します。読めば、あなたが不利益を避けるための判断力と、転職や再出発に向けた具体的な準備が手に入ります。

 

依願退職の意味と読み方、辞職やクビとの違いを正しく理解

依願退職の正確な意味と読み方

依願退職とは、従業員が自らの意思で会社に退職を申し出て、その申し出が企業に受理されることで成立する退職のことを指します。一般的な読み方は「いがんたいしょく」であり、労働者が退職の意向を持ち、企業側と合意して手続きを進めるという特徴があります。

 

多くの場合、依願退職は会社側からの強制ではなく、あくまで本人の申し出を起点に進行します。この点で、懲戒解雇や諭旨解雇といった会社側の一方的な処分とは異なり、自発的な退職という位置づけがなされています。

 

しかし実際には、企業側が懲戒処分などを避けるために、本人に依願退職を促すケースも見られます。このような場合、形式上は「本人の意思」とされるものの、内実は会社主導というケースも少なくありません。そのため、依願退職という言葉の意味には、表面的な合意だけでなく、背景にある関係性や状況の影響が含まれていることを理解する必要があります。

 

依願退職は書類上「自己都合退職」と分類されるため、企業側の規定により退職金やボーナスの支給に影響が出る場合があります。また、失業保険の給付においても、自己都合扱いとなるため給付開始時期に制限がかかることがあります。

 

以下のように、退職の区分ごとに意味と成立条件には明確な違いがあります。

 

退職区分ごとの意味と特徴

 

区分 意味と特徴 成立条件
依願退職 本人の申し出による合意退職 本人の申し出と会社の承諾
自己都合退職 労働者が自由意思で退職を希望する 本人の意思のみ(通知で成立)
解雇 会社が一方的に労働契約を解除する行為 会社による通知と正当理由
懲戒解雇 規律違反などに基づく懲戒処分の一環 就業規則に基づいた懲戒手続き
諭旨退職 会社が退職を強く勧める合意形成型 会社の指導と本人の承諾

 

依願退職は法的には「労働契約の合意解約」という形で成立します。これは民法上の合意解約に該当し、企業側と労働者双方の意思が一致していることが前提です。そのため、企業の就業規則や退職に関する社内規定によって詳細な運用が異なることもあります。

 

また、依願退職を選ぶ背景には、職場環境の不満や人間関係の悪化、体調不良、キャリアチェンジ、育児や介護などの個人的事情も含まれます。したがって、単なる用語としての意味だけでなく、その背景にある多様な理由を読み取ることが大切です。

 

依願退職の扱いは、職種や業種、雇用形態によっても異なる場合があります。たとえば、公務員の依願退職については、懲戒処分との関係や退職金支給条件など、民間企業とは異なる取り扱いが行われています。このため、業務内容や規程に応じた確認が欠かせません。

 

このように、依願退職という言葉は表面的には「本人の意思による退職」として扱われますが、その背後には法的な構造や企業ごとの制度、そして本人の事情など多層的な意味が含まれています。正確に理解することで、手続きの判断や将来設計において適切な対応が可能になります。

 

「辞職」「クビ」との違いをわかりやすく整理

退職に関する用語には「辞職」や「クビ(解雇)」など、依願退職と混同されやすい表現が複数あります。これらを正確に理解することは、退職理由を整理する上で非常に重要です。

 

まず、「辞職」という言葉は、公務員や役職者が自らの地位を辞する際に用いられる表現です。主に職責を持つ立場で使用されるため、民間企業の一般的な正社員が辞める場合には「辞職」よりも「退職」や「依願退職」という表現が適切とされます。

 

一方、「クビ」は通俗的な言い回しであり、法的には「解雇」として扱われます。これは企業側が一方的に労働契約を終了させる措置であり、懲戒処分や経営上の理由など、何らかの正当性が必要とされます。

 

これらの違いを明確にするため、以下の比較表をご覧ください。

 

退職関連用語の比較表

 

用語 主な使用場面 主体 必要な手続き・条件 備考
依願退職 正社員や契約社員など一般労働者 労働者と企業 本人の申し出と会社の承認 合意が前提
辞職 公務員や役職者 労働者 自発的な意思表示(文書) 地位放棄としての意味合い
解雇 すべての労働者 企業 正当な理由と通知が必要 法的な制限あり
懲戒解雇 規律違反や不祥事の処分 企業 社内規定に基づく手続き 重い処分として扱われる

 

依願退職と解雇との決定的な違いは、その「主体」と「手続きの在り方」にあります。依願退職はあくまで従業員の意思に基づき、会社と合意を形成して行うものですが、解雇は会社側が労働者の意思にかかわらず行う一方的な処分です。

 

この違いにより、退職理由の説明にも影響があります。転職活動の面接などで退職理由を問われた場合、依願退職であればポジティブな事情として説明しやすいですが、解雇の場合は経緯や理由を問われる可能性が高くなります。

 

また、失業保険の給付条件や開始時期にも違いが見られます。依願退職は原則として自己都合扱いとなり、給付開始までに待機期間が設定されますが、解雇は会社都合とされる場合があり、より早いタイミングで給付が始まることもあります。

 

さらに、企業側にとってもこれらの扱いは重要です。依願退職を勧めることで退職金の減額やトラブルの回避が可能になるため、企業は従業員に依願退職を促す場合があります。これにより、表向きは円満退職の形を取りつつ、実際には問題のある退職が行われている場合も存在します。

 

つまり、「辞職」や「クビ」といった言葉を使用する際には、その法的な意味や社会的な背景を踏まえて正確に使い分けることが求められます。依願退職との違いを理解することで、自身の立場や今後のキャリア形成においても適切な判断ができるようになるでしょう。

 

会社都合退職との法的・金銭的な違い

依願退職や自己都合退職と異なり、会社都合退職は企業側が労働者との雇用契約を終了させる形式で、労働者の意思とは関係なく行われるケースも多くあります。整理解雇や人員削減、事業所の閉鎖などが主な理由に挙げられます。

 

法的な視点から見ると、会社都合退職には厳格なルールが課せられており、企業側は合理的な理由や社会的相当性を証明する必要があります。例えば整理解雇を行うには、人員削減の必要性、解雇回避努力の有無、人選の合理性、手続きの妥当性という四つの要件を満たさなければなりません。これらを怠ると、後に解雇無効を訴えられるリスクが発生します。

 

一方、金銭面では会社都合退職の方が労働者にとって有利な点がいくつかあります。まず、失業保険の支給においては、自己都合退職よりも短い期間で受給が開始され、給付期間自体も長くなる傾向があります。また、退職金の支給額に関しても、企業によっては自己都合退職よりも高額に設定されている場合があります。

 

以下に制度上の違いを整理した表を紹介します。

 

項目 会社都合退職 依願退職・自己都合退職
解雇の主体 企業側 労働者側(企業が促す場合も含む)
解雇理由の必要性 社会的・経済的な合理性が必要 本人の都合であれば不要
失業保険の給付開始 早期(7日間の待期後すぐ) 原則2〜3か月の給付制限あり
退職金の支給 企業によっては優遇されるケースあり 減額または不支給もあり
法的制限 就業規則、労働基準法に基づく義務 自発的であれば特別な制限なし

 

退職理由の違いは、将来的な転職活動や信用情報にも少なからず影響します。会社都合退職は、本人に問題があったわけではなく、あくまで企業の事情による退職であるため、面接などでの説明においても誤解を避けやすい側面があります。

 

しかし、企業側が依願退職という形式をとることで、実質的に会社都合でありながら表面上は労働者の都合として処理するケースもあります。このような場合、労働者側がハローワークでの説明によって正当性を訴えることで、給付条件の変更が可能となることもあります。

 

正確な記録と明確な主張があれば、依願退職であっても、実態としての会社都合退職と認定されることがあります。こうした制度的な違いを理解しておくことで、不利益を最小限に抑える判断ができるようになります。

 

依願退職でも退職金やボーナスはもらえる?

依願退職で退職金が出るケース・出ないケース

依願退職において退職金が支給されるか否かは、勤続年数、就業規則の規定、退職理由の性質など、複数の要素によって決定されます。従業員が「自発的に退職を申し出た」としても、その退職の背景や時期、そして企業の内部規定によっては支給額が大きく異なる、あるいは支給自体がされない可能性もあります。

 

まず、基本的な支給の前提として、多くの企業が「一定の勤続年数(例 3年、5年、10年など)」を満たしていることを退職金支給の条件に掲げています。このため、短期離職の場合には、たとえ依願退職であっても退職金がゼロというケースは珍しくありません。

 

また、依願退職であっても、「不祥事に関連した退職」や「重大な規定違反」が関係している場合は、懲戒処分を回避する形式上の依願退職であっても、就業規則に基づき支給が制限されることがあります。特に公務員や教員といった立場においては、処分歴の有無が退職金額や支給可否に直結する点は重要です。

 

次に、ボーナスについてですが、こちらは原則として「支給日に在籍しているかどうか」がカギになります。依願退職のタイミングがボーナスの査定期間中であったとしても、支給日より前に退職してしまえば、支給対象外となるケースが多いのが現状です。

 

以下は、依願退職における退職金・ボーナスの支給可否の基準です。

 

項目 退職金支給の可否 ボーナス支給の可否 補足説明
勤続3年未満 支給対象外となることが多い 在籍していれば一部支給可能 就業規則によるが、退職金制度自体の対象外の場合が多い
勤続10年以上 支給対象となることが多い 支給日まで在籍で支給可能 勤続年数により金額が大きく変動
不祥事による退職 減額または不支給 不支給が一般的 就業規則や処分歴に基づき支給制限が適用される
柔軟な企業対応 規定により特別加算もあり 査定基準や規定次第 成果や貢献度により個別対応されるケースもある

 

このように、依願退職であっても、退職金やボーナスの支給可否は一律ではなく、勤続年数・企業規定・退職理由・支給日の在籍有無といった複数のファクターが複雑に絡み合っています。

 

また、公務員の依願退職では、地方公務員法や国家公務員法に基づいた支給基準が適用されるため、一般企業とは異なる点も見逃せません。特に「処分前に依願退職を選ぶ」というケースでは、支給される額が減額される、もしくは受給資格が剥奪されることもあるため注意が必要です。

 

依願退職を選択する前には、自身の勤続年数や退職理由、企業の退職金規定を事前に確認し、損をしないための戦略的な退職計画を立てることが重要です。

 

企業規定と支給条件の確認ポイント

依願退職での退職金やボーナスの受給可否は、最終的には「会社の規定次第」と言っても過言ではありません。退職金制度の有無や支給条件、金額計算の方法などは、企業ごとに定められており、それらは主に「就業規則」「退職金規程」に記載されています。

 

まず確認すべきは、自分の勤務先が退職金制度を設けているかどうかです。中小企業の中には、退職金制度自体が存在しない場合もあります。存在する場合でも、正社員に限る、あるいは勤続年数に応じた支給要件があるなど、条件はさまざまです。

 

特に以下の文書・情報は、退職前に必ずチェックしておくべきポイントです。

 

・就業規則
・退職金規程
・労働契約書
・給与規定
・人事担当者との確認記録

 

確認すべき代表的な項目を表にまとめると、以下の通りです。

 

チェック項目 内容の例 重要度
退職金制度の有無 規程がない=支給されない
勤続年数の要件 勤続5年以上で支給対象など
規定違反時の扱い 規定違反や懲戒処分時は不支給と明記されている
自己都合との違い 自己都合退職より減額と明記されている場合あり
ボーナスの支給要件 支給日に在籍か、査定期間の評価が対象か

 

注意したいのは、依願退職は「本人の意思による退職」として、自己都合退職と同様に扱われるケースが多いという点です。つまり、会社都合退職に比べて、退職金の額が少なくなる、失業保険の給付が遅れるといった不利な点が出てくる可能性があるということです。

 

また、退職金制度の一部には「功績加算」「特別功労金」など、企業が独自に設定する項目も存在します。長年にわたって重要ポジションを担っていた場合や、特別な成果を挙げた場合には、こうした加算項目により退職金が上乗せされるケースもあるため、自身の該当状況を確認しておきましょう。

 

特に公務員や教職員においては、地方自治体や省庁ごとに退職金支給の計算式が異なり、「依願退職か、処分を受けた退職か」によって金額が顕著に変化するケースもあります。たとえば、処分歴がある場合は、過去の功績に関係なく一定額が減額される制度が採用されていることもあるため、非常に慎重な確認が必要です。

 

退職を決めた段階で、「書類だけでなく口頭での説明記録」も残しておくことが、後のトラブル回避につながります。退職金やボーナスに関する条件は、曖昧なまま進めると後々の大きな損失につながりかねません。企業側と明確に合意形成をしたうえで、納得のいく形で退職手続きを進めることが不可欠です。

 

退職日までに有給を使い切るべきか?

退職時に残っている有給休暇を使い切るかどうかは、金銭的・実務的な観点から非常に重要な判断です。有給休暇は労働者の権利であり、依願退職を選ぶ際にも原則として自由に取得することが可能です。使い切らずに退職日を早めてしまうと、本来得られるべき収入を失うことになります。

 

まず押さえておくべきは、有給休暇は退職時において「買い取りの義務はない」という点です。企業によっては便宜上買い取ってくれる場合もありますが、法的義務はありません。つまり、有給を消化せずに退職した場合、その日数分の給与を失う可能性が高くなります。

 

具体的な金銭的影響を理解するために、以下の計算シミュレーションを確認してみましょう。

 

月収25万円、1日あたりの賃金1万2500円、有給10日残
→ 有給全消化で約12万5000円の追加収入

 

このように、有給の消化は実質的に退職時の「退職ボーナス」として機能する側面もあります。

 

また、以下のような疑問を持つ方も多いです。

 

・退職願提出後でも有給申請できる?
・上司が有給申請を拒否した場合どうする?
・引継ぎを理由に有給取得を制限されることはある?
・パートや契約社員でも有給は消化できる?

 

これらの疑問については、すべて「原則として有給取得は労働者の権利」であり、会社側が拒否する正当な理由がなければ、使用を制限することはできません。

 

有給休暇に関する基本原則

 

・労働基準法では、6か月以上継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤していれば有給が付与される
・退職日を「有給消化の最終日」に設定することが可能
・会社側は業務上の調整を理由に時季変更権を行使できるが、退職が確定している場合は実質的に行使不可

 

依願退職を円満に、かつ損なく行うためには、「退職届を出す前に、有給休暇の残数を確認し、取得計画を立てる」ことが重要です。また、有給申請は書面で残し、上司や人事担当者とのやりとりも記録しておくことで、万が一のトラブルにも備えられます。

 

退職を機に転職活動を進める場合も、有給期間中に面接や準備に時間を割ける点でメリットが大きく、戦略的な退職計画として活用する価値があります。経済的にも精神的にも有利な形で新たなスタートを切るため、有給休暇の扱いには最大限の注意を払いましょう。

 

依願退職は不祥事の隠れ蓑?懲戒処分や諭旨退職との関係

企業が「依願退職を勧める」ケースとリスク

企業が従業員に対して依願退職を促すケースは、単なる人員整理や経営効率化のためだけでなく、不祥事やトラブルの処理手段としても用いられることがあります。特に表向きには「本人の意思による円満退職」という建前を取りながらも、実質的には企業主導での処分的退職が行われていることが少なくありません。このような形態は、倫理的・法的な観点からも慎重な対応が求められます。

 

企業が依願退職を勧める背景には、以下のような要因があります。

 

  1. 懲戒処分によるイメージダウンの回避
  2. 労働審判や訴訟リスクの低減
  3. 社内規定や就業規則の適用回避による柔軟な対応
  4. 社員側の再就職を考慮した「穏便な幕引き」
  5. 公的機関や株主への影響の最小化

 

これらの目的のために、企業は「依願退職という選択肢」を提示することで、法的対立やトラブルを回避しようとします。従業員にとっても「懲戒解雇」と記録されるよりは、履歴書上で「依願退職」とするほうが印象は良く、再就職にも有利になるといった事情があるため、双方にとって“円満退職の形”をとるメリットが存在するのです。

 

しかし、この手法には重大なリスクも伴います。企業が明らかに懲戒処分の回避を目的として依願退職を強制した場合、それは実質的に「退職勧奨」となり、労働者の意思に反する退職とみなされる可能性があります。厚生労働省が定めるガイドラインにおいても、退職の強要や圧力による辞職は不当行為として問題視されるため、適正な手続きが求められます。

 

実際に起こりうるリスクには、以下のようなものが挙げられます。

 

・労働者側が「不当解雇」として労働審判を申し立てる
・依願退職とされたにもかかわらず退職金が減額・不支給となる
・内部告発やSNS拡散による企業の評判リスク
・他の従業員への不信感の波及、組織風土の悪化

 

このようなリスクを回避するため、企業は以下の対応を徹底すべきです。

 

チェックポイント 対応例
労働者の真意の確認 面談記録や書面による意思確認を残す
就業規則の適用範囲確認 懲戒手続きと依願退職の分離
第三者による同席 人事部や労務担当者など、公平性を保つ
退職手続き書類の明示 退職願・承諾書の提出と保管
退職金・失業保険の案内 自己都合か会社都合かの明確な説明

 

企業が依願退職を促すという行為は、慎重な倫理判断と制度理解をもとに行わなければ、労使間の信頼関係を大きく損ねる危険性を孕みます。特に近年では、情報の透明性や労働者保護が重視される傾向が強まっているため、曖昧な処理は大きな代償を伴う可能性があります。

 

懲戒処分を回避するための依願退職の背景

依願退職が「懲戒処分の回避手段」として機能するケースは、企業内部での問題が対外的に波及することを避ける目的が中心です。特に、従業員が不祥事を起こした場合、本来であれば就業規則に基づく懲戒解雇や諭旨解雇などの処分が検討される状況でも、企業側が「依願退職」という形式を選ばせることで、問題を穏便に処理しようとすることがあります。

 

このような背景にある判断軸としては、以下が挙げられます。

 

・不祥事の内容が社外に漏れることでブランド毀損につながる
・懲戒手続きにかかる時間とコストの回避
・労働者側の抵抗による訴訟リスクの軽減
・退職者側にも一定の“救済措置”を設けた形とすることで合意形成しやすくする

 

具体的な事例として、過去には以下のようなものがあります。

 

事例概要 内容
某大手メーカー営業職 顧客情報の不正持ち出し→社内処分対象→依願退職に切り替え処理
教育機関に勤務する教員 体罰指導でのトラブル→保護者と示談後に依願退職
公務員職員 資金不正使用が発覚→依願退職の形式で処理

 

こうしたケースでは、懲戒解雇や減給処分を避けたい企業の意向だけでなく、従業員側にも「退職金の減額回避」「再就職時の経歴記載を良くしたい」といった動機が働いており、両者の利害が一致することで依願退職という合意に至ることがあります。

 

ただし、形式上の依願退職であっても、その背景に懲戒理由が含まれている場合、退職後の社会的信用や再就職活動での影響が残ることもあります。たとえば、面接時に「なぜ退職したのか」と聞かれた際に、明確に説明できなければ、不信感を与えてしまう可能性があります。

 

また、依願退職後の失業保険受給についても注意が必要です。原則として自己都合退職扱いとなるため、給付開始までに待機期間(原則7日間)+給付制限期間が生じることになりますが、退職の経緯に強制性があったと判断されれば「会社都合退職」として認定される可能性もあります。この認定には、退職時の書類や発言記録が重要な証拠となるため、慎重な対応が必要です。

 

依願退職の選択には「損を避けるための合理性」と「倫理的な妥協」の両面があることを理解し、適切な判断と行動が求められます。

 

諭旨退職・諭旨解雇との法的な違いと注意点

依願退職と混同されやすい制度に「諭旨退職」や「諭旨解雇」があります。これらはいずれも企業が不祥事などを受けて従業員に退職を勧める場面で登場する概念ですが、法的な位置づけや手続き、労働者にとっての影響は大きく異なります。

 

まず、それぞれの制度の違いを比較した表を確認してみましょう。

 

区分 主体 退職者の意思 就業規則上の位置づけ 退職金の支給 社会的な印象
依願退職 労働者側 あり 自己都合退職扱い 原則支給 一般的・穏当な印象
諭旨退職 企業側の指導 一応あり 処分の一環 一部支給または減額 ややマイナス
諭旨解雇 企業側 なし 懲戒解雇に準ずる 原則不支給 重い処分扱い

 

諭旨退職とは、懲戒解雇に相当するような不祥事があった場合に、企業側が「自主的な退職」という形を取らせるものです。表向きは労働者の意思で退職したかのように見えますが、実質的には企業の処分意向に沿った形式となります。

 

一方、諭旨解雇は懲戒解雇とほぼ同様の重さを持つ処分ですが、「本人の反省の意思」や「再発防止の姿勢」などが認められた場合に、若干の救済措置(退職金の一部支給など)を残した解雇処分として扱われます。

 

重要な違いは、退職後の再就職活動や社会的信用に対する影響です。依願退職であれば職務経歴書に特に不利な記載は不要ですが、諭旨退職や諭旨解雇の場合は、企業側の証明書や退職理由欄に特記が入る可能性があり、それが転職活動での障害になることもあります。

 

また、失業保険の面でも差が出ます。依願退職は自己都合扱いのため給付制限期間がありますが、諭旨解雇は内容次第で会社都合扱いとされ、早期に給付が開始される場合があります。どのように申請・証明されたかが判断基準となるため、ハローワークでの説明や企業側の書類提出内容に注意を払う必要があります。

 

依願退職、諭旨退職、諭旨解雇のいずれも「円満退職」に見えることがありますが、その法的意味や実質的な影響は大きく異なるため、表面的な判断ではなく、制度の正しい理解と自らの立場に合った対応が求められます。労働者としては、提示された選択肢に安易に応じるのではなく、自身のキャリアや今後の影響を熟慮したうえで決断することが大切です。

 

まとめ

依願退職とは、従業員が自らの意思で退職を申し出る形式ですが、実際には会社側からの働きかけで行われるケースも多く、制度上は「自己都合退職」として処理されることが一般的です。しかし、この分類が退職金や失業保険の支給、そして転職活動にまで影響を及ぼすことは意外と知られていません。

 

たとえば、自己都合退職扱いでは失業保険の支給に最大3か月の給付制限が課されます。一方、条件次第で「会社都合退職」に該当すると認定されれば、給付制限なしで早期に失業保険を受け取ることが可能になります。これは厚生労働省の公的ガイドラインにも明記されており、退職勧奨やハラスメントによる退職、長時間労働などはその対象となり得ます。

 

また、退職金についても企業の就業規則に左右され、諭旨退職や懲戒処分との関係で大きく減額される可能性があります。とくに「形式は依願退職だが、実質は処分回避のため」というケースでは、納得のいく支給を受けられないこともあるため、必ず事前に企業規定を確認することが重要です。

 

「退職届を出せば終わり」ではなく、依願退職の背景や書類上の取り扱いが将来の生活設計に直結します。損をしないためには、制度の違いや申請時の注意点を理解したうえで、離職票の内容や退職理由についても慎重にチェックすることが必要です。

 

この記事では、専門的な制度の解説だけでなく、実際の事例や公的データをもとに、読者が抱えがちな不安や疑問をひとつずつクリアにする内容をお届けしました。ぜひ得た知識を活かし、退職後の生活をより有利に、そして安心してスタートさせてください。

 

よくある質問

Q.依願退職では退職金が出ないと聞いたのですが、実際はどうなのですか?
A.依願退職であっても、企業の就業規則や退職金規程に則っていれば退職金は支給されます。例えば、勤続10年以上かつ規定違反がなければ、退職金として平均で200万円から400万円支給されるケースもあります。ただし、懲戒処分を避けるために依願退職を選んだ場合などは、支給額が減額されたり、全額カットされることもあるため、事前に制度の確認が必要です。

 

Q.依願退職でも失業保険は受給できますか?自己都合退職との違いが分かりません。
A.依願退職は原則として自己都合退職扱いとなるため、失業保険の給付には7日間の待機期間と3か月の給付制限が設けられます。しかし、退職勧奨や定年が原因の場合は、ハローワークでの申し立てにより会社都合退職として認定され、早期に支給される可能性があります。実際に会社都合扱いとなると、給付日数が90日から最大330日まで拡大されることもあります。

 

Q.依願退職と会社都合退職ではどれくらい金銭的な差がありますか?
A.失業保険の支給条件だけを見ても、会社都合退職では7日間の待機後すぐに受給が開始され、自己都合退職より約90日分も早く受け取れるという明確な差があります。また、退職金についても企業によっては会社都合の場合に割増し支給を行っており、差額が50万円以上になることもあります。金銭面だけでも依願退職と会社都合退職の違いは非常に大きいといえます。